現理事長の挨拶

 日本マインドフルネス学会も設立から10年目を迎え、この度、第二代の理事長を拝命いたしました。

 今ほど、マインドフルネスが必要とされている時代はないのではないでしょうか。本学会ではマインドフルネスを、“今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、 評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること” と定義しておりますが、その結果、「現実」を偏りなく知ることになります。

 これまで、コロナ禍の3年間を過ごしながら、政治的メッセージやマスコミが発信する情報の大きな偏りを実感し、世界が様々に分断されそれぞれが自分にとって正しいと思うことを主張する声があちこちから聞こえ、そして政治体制や経済状況なども大きく変貌し、これまで大前提であったことがもうそうではなくなり、われわれ一人ひとりが、毎日どう生きたらいいのか、どこに向かっていけばよいのか、とても不透明な時代になっていると思います。こんな時は、現実を正しく感じ取り、ニュートラルな自分を回復し維持していくことが何よりも重要になると思いますが、マインドフルネスはその力を高めてくれることになります。

 現在の世界の状況を見渡して見ると、人間社会にとって、これ以上ないピンチが訪れているとも言えますが、そのピンチをチャンスに変えていくしかないのだと思っています。そのためには、ただやみくもに頑張るのではなく、ニーバーの祈りにある「変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ」という姿勢こそ欠くことのできないものになると思いますが、マインドフルネスは、このアクセプタンスとウィリングネスの力も高めてくれます。

 このような時代の中、本学会は、2600年前から東洋に脈々と受け継がれ、20世紀になって欧米も含めて花開いたマインドフルネスという心の使い方、そして生き方を実践、研究、伝達する場として、今後とも皆様のお役に立てればと考えております。これまで通り、心理学、精神医学、心身医学、宗教、そして教育、産業、脳科学などの領域も含めて、幅広い研究者や実践家に参加していただき、お互いに切磋琢磨して、新たな時代を切り開く縁としていければと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

理事長 熊野宏昭(任期:2023年4月〜)